It's K's life.

けーくんの備忘録です。2018年夏からケンブリッジのMBAに行きます。三島由紀夫と海老蔵に似てます。

夢の終わり

ケンブリッジでの一年も、遂に終わりを迎えた。

平敦盛は人生五十年夢幻の如くと歌ったが、この一年もまるで夢幻のような時間だった。

このブログも四半期毎にアップデートしてきたが、いよいよMBAについての更新は今日で最後とする。第3学期のレビュー、そしてケンブリッジMBA全体の総括を記したい。

1. 第3学期レビュー

最後の学期は非常に余裕のある2ヶ月間で、一番自由に過ごせた学期だった。おそらくは就職活動をする学生に余裕を与えるためだろうが、授業の数が少なく、それもほとんど選択科目という構成になっている。

第1学期と第2学期は正直結構苦戦したが、第3学期は進路もそれなりに定まっていたこと、それまでの苦労のおかげで資料の読み込みや課題提出等色々と慣れていたこともあり、とても時間があった。

そうしたこともあり、第3学期はMBAを通じて一番興味を持った起業・スタートアップにフォーカスし、授業を通じてビジネスアイディアのテストを行ったのに加え、ケンブリッジ発のスタートアップでのインターンに取り組んだ。

まずは起業アイディアのテスト。MBAのプログラムの中で、個人として起業アイディアを提出する授業と、グループでビジネスアイディアを練ってプレゼンする集中講義があり、アイディアを練った。前者はケンブリッジでもピカイチ有名なラズベリーパイ(超小型コンピューター)の創業者が、後者はケンブリッジに縁のある起業家陣(教育業界世界最大手のピアソンの元CEO含む)が講師。「起業に興味があるならタイミングは常に今」、「創業直後は赤字を出すことを決して恐れるな」、「IP取るときはコストもしっかり考えろ」、等々、経験豊富なシリアル・アントレプレナーから起業のエッセンスを教えていただく非常に素晴らしい機会だった。それらの話を踏まえて、もともと興味のあるソーシャルビジネス系のアイディアと、ひたすら利益を出すことを目指したスケールアップ可能なビジネスアイディア、それぞれをテストした。潜在的なユーザーにアンケートを行ってマーケットニーズを見定めるところから、(なんちゃって)ファイナンスモデルを作るところまでやって、0から1までアイディアを形にするプロセスを経験することができた。

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理系Ph.D, ポスドク、EMBA等と臨床試験関係ビジネスのアイディアを練ってプレゼン

が、それでもまだ時間がたんまりあったため、ケンブリッジ発の折りたたみE-bikeスタートアップ、Flit(https://www.flit.bike/)でインターンをさせてもらった。

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Flitのサイトのスクショ。デザイン素敵。日本で早く売って欲しい、、、

Flitの創業者は先述の集中講義で講師を勤めていて、出来立てホヤホヤのスタートアップながらクラウドファンディングを成功させてまさにこれからマーケットに打って出るぞ!という面白いタイミングにあった。自転車でお遍路する程度には自転車を嗜む僕には非常に興味深く、その後大学でたまたま会った時に話をしてみたら意気投合し、いつの間にかインターンとして日本市場への進出戦略を検討するお手伝いをさせていただくことになっていた。結果、自転車業界というイメージはつくがなかなか知らない業界について勉強しながら、スタートアップとしてどのようにマーケットの成熟度を測り、ニッチな市場への進出のタイミング・戦略について考えるという、とても楽しい仕事をさせてもらうことができた。同時に、本当に今が一番忙しくも楽しい時期というタイミングのスタートアップの雰囲気を感じられたのも非常に良い経験で、お手伝いできたのが嬉しかった。

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Flit創業者のAlex、同じくインターンしたクラスメートのZachと。

が、それでもまだまだ時間がたんまりあったため、夜は極力作業せず、友人たちを家に招いてディナーを提供して仲を深めたり、カレッジのフォーマルディナーに行ってケンブリッジの雰囲気を楽しみ、ネットワーキングに精を出した。特に、学期の終わりにあったケンブリッジ名物のMay Week(各カレッジで開催されるMay Ballという年に一度のお祭り騒ぎが行われる週。参加者は皆タキシード・スーツ・ドレスで朝まで踊り続ける。伝統的学祭、というイメージ。)はこの非日常の街を体現した、本当に楽しい時間だった。あのキラキラした時間を僕はきっと一生忘れない。

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May Ball、朝5時まで踊った後の生存者集合写真。

2. ケンブリッジMBA総括

と、キラキラした思い出ばかりのケンブリッジでのひと時。総括するには書きたいことが多すぎる。既に過去の記事で言及したこともあるし、その中でもキャンパスビジットをした学生によく聞かれる、MBA前は予期していなかった、ポジティブなサプライズを3つ取り上げたい。

①オックスブリッジというマジカルワールド

オックスフォードとケンブリッジをまとめてオックスブリッジと呼ぶ。この二つを一括りにして特別視するのは何故なのか、実際にそこに住んでみてようやく分かった。一方ではまるで中世やハリーポッターの世界がそのまま現代に蘇ったかのような、13世紀から残る建造物やフォーマルディナー等の伝統的な儀式がありつつ、最新のテクノロジー、スタートアップ、将来の世界を担うエリートたちと言った、正に今の世界の最先端を見せてくれる。この歴史の重みと未来とを両方感じさせてくれる場というのは、オックスブリッジ以外にはやはり無いと感じた。

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ビジネス・オペレーションの試験を、ケンブリッジの伝統的なローブスタイルで受けた後の集合写真。

②やりたいことの見える化

MBAでは講義を通じてファイナンスからマーケティングまで幅広いビジネス領域について学ぶことができたことに加え、コンサルティングや起業プロジェクトベースを通じて、自分の強み・弱み等を理解することができた。加えて、ケンブリッジコミュニティの理系やパブリック系などの他の分野を学ぶ学生や、起業家から国連関係者まで幅広い業界の人たちと話す中で、自分がこの世界で本当にやりたい事はなんなのかを突き詰めて考えることができた。JICAで国際協力に携わり、エジプトに駐在する中でも色々な経験をして、多様な人々と出会って見えてくるものがあったけれど、ケンブリッジでの1年間はそれがより濃密だったように感じる。

③新しい価値観との出会い

ケンブリッジでは価値観について問われることも多くあった。例えば、私が住んでいた家にはLGBTのルームメイトが二人いて、本当にあけっぴろげにそれを公にしていた。MBAにも勿論複数名LGBTがいて、LGBT系のイベントを多数開催していた。私は彼らとも結構仲が良かったので、もっとケンブリッジLGBTの啓蒙に力を入れるべきだという議論に巻き込まれたこともあった。これまでLGBTの友人はいたが、こんなにLGBTがオープンに発信しているコミュニティというのは人生で初めて所属したかもしれない。でも別にそれはLGBTだけでなく、例えば環境問題についても本当に力強く、いろんな場面で前面に立って主張する同級生がいるし、女性のエンパワーメントについても多くの学生(男性含む)が関心を示していた。アフリカ人はアフリカ人のエンパワーメントについて頻繁に言及するし、ラテン系はラテンの価値観(時間通りにパーティーに行くのは主催者に失礼!だから遅刻するのが正義!等)を主張する。そんなダイナミックな環境の中で、これまではそうした価値観を知ってはいてもまだまだ理解していなかったし、自分の一部になっていなかったなと気づかされた。

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運営をボランティアしたCambridge Africa Business Conference.



3. 終わりに

高校の時もアメリカに1年間留学して、本当に多くのことを学んだし自分という人間の形成にも多大な影響を与えたけれど、このケンブリッジでの一年はより深い刻印を自分に残したように思う。それは仕事面でもそうだし、自分の価値観・考え方だったりもそう。そして何より、最高の友人たちに出会い、ただただ楽しい時間を過ごせたことが、人生に与える意味は大きいだろう。

昔、高校の国語の授業で、「青春という時間の価値は、失って初めて分かる」という文章が扱われたことがあった。え、どういうこと?、とその時は思ったが、大学に入って少しその意味を理解し、社会人になってあの文章の正しさに気づいた。

きっとこのケンブリッジでの経験も同じように、ジワジワと今後失ったものの大きさを理解していくのだろう。

でも、それと同じくらいに、彼の地で得たものの価値も大きいはずだ。

いよいよ来週からは東京で新しい職場での仕事が始まるが、失ったものを振り返るのはほんの少しにして、得たもの全てを腹落ちさせて、今生きているこの時にできることを大切に、未来に向かって歩を進めていきたい。

最後に、今回の留学に際して関わった皆様全員にお礼を申し上げて筆をおきたい。支えていただいて、本当にありがとうございました!Thank you Cambridge for the life-changing experience!!

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入学式の時に撮った写真。初心、忘れるべからず、という気持ちで今後も頑張ります!