It's K's life.

けーくんの備忘録です。2018年夏からケンブリッジのMBAに行きます。三島由紀夫と海老蔵に似てます。

ほぼ隔週けーくん新聞 号外:米英仏のシリア軍事介入について-何故、今なのか?-

こんばんは、密かに国際政治専攻、人道的介入の研究など大学時代に行っておりました、ヨルダンOJTのけーくんです。

現在日増しに米英仏を中心とした欧米によるシリア軍事介入に関しての報道がなされていますが、その多くは「何故今か」という問いかけに対し、非常に断片的な答えしか呈しておらず、全体像を捉えきれていません。僭越ながら、普段の新聞とは別に、シリア情勢ウォッチャーの一人として、シリア軍事介入の「何故」に関する「私見」を記します。

1.
何故欧米は武力介入を躊躇ってきたのか。
現在のシリアの混乱は、他国でのアラブの春と同時期の2011に始まりました。それから二年。10万人に上る犠牲者と100を超える難民を生む、今世紀最大の人道危機が今そこにあります。
それなのに、何故欧米はもっと早く軍事介入という行動に出なかったのでしょう
これに対して、表面的には露中による安保理での反対という話がよくニュースでは取り上げられていると思いますが、90年代のユーゴ、03年のイラクと、法的な授権無しに武力行使に踏み切ったという事実は過去にあり、今回も安保理の機能不全を理由とするか、もしくは曖昧な構成要件に基づく「保護する責任」などの概念を用いて事実上の行動に移すことも不可能ではありませんでした。
現実には、以下のような更に複雑な理由が絡み合い、欧米の武力行使を躊躇わせているのです。
費用対効果の悪さ
戦争というものには常に犠牲が付き物です。人的、物的、金銭的なコストは測りかねません。直近においても、欧米諸国はイラク、アフガンと二度の戦争の結果、多大な犠牲を払いました。今回もそれは目に見えています。他方、シリアには天然資源もなく、介入による直接的な利益というものは非常に少ない。リーマンショックに端を発する不況からの回復途上、財政危機が叫ばれる中、国民の支持を得るための条件としてのコストに対する直接的なベネフィットがあまりに少なかったのです。
第五次中東戦争の可能性
現在「内戦」とされるシリア紛争は現実には非常にグローバルなものです。政府軍にはレバノンのヒズボッラーやイランの革命防衛軍を派遣し、物的から人的まで支援を行い(北朝鮮の兵士がヘリを運転していたとかいう謎の情報も…)、反政府軍にはサウジ、カタールなど湾岸の大国から資金面、装備面での支援がなされています。そのような状況下での軍事介入は、米国との繋がりの深いイスラエルへの報復とともに、レバノンやイランの本格的な軍事介入を招く可能性も多分に見込まれます。流れ次第では第五次中東戦争という、第三次にも拡大しかねず、下手な手を打つことが出来ないわけです。
戦争後の統治の困難性
もしも本格的な介入がなされ、アサド政権が崩壊したとすると、統治が極めて困難です。現在シリアの反政府勢力は百を超える数に上ります。穏健なものも勿論ありますが、軍事的にはアルカイダ系がかなりの規模、活躍を行い、実効支配を行う地域も存在します。また、北部はクルド人が自治を始めており、こちらも不安定要因となります。そのような中、欧米がauthorizeした連立勢力の国民連合は海外亡命組が力を持ち、国内での支持を得ていないと言われています。
以上のような状況でアサド政権が無くなったとして、次はアフガン、イラクに続く、もしくはそれを超える悲惨なテロとの戦いに突入してしまいます。

2.
何故今介入か
では何故今軍事介入するのでしょうか。
こちらについても理由は三点考えられます。
欧米の面子
欧米はこれまで再三、化学兵器の使用を軍事介入のレッドゾーンと説明してきました。しかし、明らかに政府が行ったと分かるような形で、堂々と数百の犠牲者を出したわけです。おそらく、それでも欧米は介入しないだろうという、ある種の「なめた見方」がアサド政権にあったのでしょう。それでは流石に欧米の面子が潰れます。核開発を続けるイランや北朝鮮、そして軍事的拡大行動を続ける中国といった国々にも「弱い欧米」という誤ったシグナルを発してしまう可能性があまりにも高く、より国際情勢を不安定化させる恐れがあります。また、各国の国民も今は反戦派が多数を占めていますが、更なる大量兵器使用などが行われた場合に次の選挙でどう動くか分かりません。となれば、有言実行。行動に出ざるを得ないわけです。
シリア国内の情勢の悪化
現在シリアは更に混迷を極める状況にあります。反政府軍優位と見られたのも束の間、レバノン、イランの支援も入り、政権側が力を盛り返したためです。それに対し、反政府軍も更なる武器を得るとともに、パキスタンのタリバン、イラクのアルカイダが流入し、比較的安全であった地域までも激しい戦闘、そして過激派による支配を招くなど、混迷を深めています。
今行動せねば、もはやテロの巣窟、不安定の象徴としてシリアがなりかねない可能性があります。
中東全体の不安定化
シリアの問題はもはや一国の問題ではなく、中東全体に影響を与えています。私の住むヨルダンでもシリア人の流入による物価の急騰により、市民の生活は苦しくなっていますし、レバノンでもシリア政府支援の報復としてテロが起きています。イラク、トルコといった既に不安定な国への難民流入は更なる情勢の不安定化を招きます。すなわち、シリアの情勢が中東全体の爆弾となりかねないのです。

3.
今後の見通し
以上の流れから、米英仏は軍事介入に動きましたが、恐らく今回の介入はメディアでも報道されているように、地上戦を投入しない限定的な攻撃に留まると思われます。1.で述べたようなリスクを自ら現実化することは考えられず、あくまで「これ以上のお痛は許さない」というシグナルとしてのスポットの攻撃となる想定です。
ただ、実際にはそれだけで事態が収拾するわけがありません。シリア政府側の軍備はかなりしっかりとしており、欧米への反撃が予測されます。場合によっては更なる化学兵器の使用もありえます。その際、たとえ攻撃に参加しないとしてもイスラエルが巻き込まれる可能性は相当程度あると言えましょう。そして、イラン、ヒズボラの本格参戦もありえます(イランについては指導者層で見解が割れているという話もありますが)。加えて、シリア内のイスラム過激派が活動を活発化し、ますます戦線が激しくなり、難民が増加する可能性が高いと考えられます。実際、イスラエルは厳戒態勢を敷き、ここヨルダンでもかなりの緊迫感に包まれています。

シリア情勢について何が最善なのか最早分かりませんが、最悪の事態だけは避けられることを祈り、筆を置きます。

以上